1930年7月21日 イタリア/ラーツィオ州ローマ出身 - 2004年6月4日
小学生のとき、映画館の親爺さんに貰った1枚のポスターがあった。
アンソニー・ステファン主演の『荒野の棺桶』でした。
ところが、この作品は僕の宝物だったマカロニ・ウエスタンのテーマ曲を吹き込んだカセット・テープには収録されていませんでした。カセット・テープを吹き込んでくれた隣の親父さんに聞いても知らないと言われ、映画館の親爺さんに聞いてもどんな作品かは知らないと言われた(官舎の共同浴場に来て仲良くなった)。
仕方がないのでTV放映される日を待つだけだ。

▲ 『荒野の棺桶』Poster (Una Bara Per Lo Sceriffo 1965・伊/西)
結局、DVD時代になるまでこの作品との縁は訪れなかった。
『無宿のプロガンマン』も、『地獄から来たプロガンマン』も、国内盤のEPが発売されていた。そうしたレコードを親にねだって買ってもらった。だから僕には作品を見ていなくても、A.ステファンが想像の中のヒーローとして映し出されていた。でもクリント・イーストウッドやジュリアーノ・ジェンマの次くらいだった。
今はDVDの映像媒体として国内版、海外版問わず、A.ステファンの作品が揃う。
僕の子供の頃では考えられなかった。
自分の出演された作品が世界中のマカロニFANに映像媒体として届けられる今の時代を、A.ステファンは天国からどう見てるんだろうか。

▲ 『荒野の死闘』より
ブラジルのイタリア大使の息子としてローマで生まれる。
この辺りの事情が日本版Wikipediaに記されているので、その一文を拝借したい。
“アンソニー・ステファンはローマのパンフィーリ宮殿にあるブラジル大使館で生まれた。彼の一族はプロイセン王国に端を発する長い歴史を持つ伯爵(フォン・ホーンホルツ家)の家柄である。彼の曽祖父はテフェの大豪族であった。彼はフォーミュラ1・レーシングチャンピオンであり、ブラジル大使を務めたマヌエル・デ・テッフェ・フォン・ホーンホルツの最初の子供である。兄弟は弟のフェデリコと妹のメリッサがいる。また、彼の大おばにブラジル初の女性漫画家であるナイル・デ・テッフェ・フォン・ホーンホルツがいる。第二次世界大戦中、10代だったアンソニーはパルチザンに参加し、ナチス・ドイツと戦っている”
初期の頃は、本名Antonio De Teffèの名で活動をされていたと伝えています。
1948年のイタリア映画『自転車泥棒』でのアルバイト経験が映画界へのスタートとされ、IMDbサイトでは1953年のイタリア映画『Ci Troviamo In Galleria』と言う作品からその足跡を刻んでいる。
端役とは言え、役者としての活動はコンスタントに続いていく。

左から、
『Gli Sbandati』Poster (1955・伊)
『I Cavalieri Del Diavolo』Poster (1959・伊)
『ソドムとゴモラ』Poster (Sodom And Gomorrah 1962・伊/仏/米)
マカロニ・ウエスタン映画以前の出演作品になりますね。
『ソドムとゴモラ』は僕らの国も劇場公開がされた作品のようです。この時代のイタリアお得意の史劇物になるんでしょうか。僕などは観たことがない作品が続きますが、A.ステファンはこうした作品に出演し役者としての地位を固めていったことでしょう。
1965年には西ドイツが主体となった西部劇『夕陽のモヒカン族』に出演されます。
この作品はイタリアも制作国に名を連ねているので、マカロニ・ウエスタンに分類しても間違いないでしょう。ただし、僕はこの作品は観ておりません。
『夕陽のモヒカン族』でのA.ステファンですが、その長身と寡黙さが注目されたと伝えられる。『荒野の用心棒』のクリント・イーストウッドに続けてばかりに、新たなマカロニ・スターを探していた映画関係者の目に留まったようです。そして彼を主演とするマカロニ・ウエスタン映画が用意されていきました。

写真左から、
『嵐を呼ぶプロファイター』Poster (Perché Uccidi Ancora 1965・西/伊)
『地獄から来たプロガンマン』Poster (Sette Dollari Sul Rosso 1966・伊/西)
『荒野のプロファイター』Poster (Ringo Il Volta Della Vendetta 1966・伊/西)
日本でも劇場公開されたマカロニ全盛期の3作品でA.ステファンは主演を張る。
リアルタイムで劇場体験できなかった僕(当時は3,4才)は、当時の映画FANの反応は分かりません。しかし、マカロニ新スター登場の期待に応えるべく、A.ステファンの主演作品はその後も続いた。
どうなんだろう......玄人好みの作風、そんな感じがいたします。
派手さや、華麗さは感じさせないも、マカロニ・ウエスタン映画だけが持っている世界観みたいなものを感じることが出来る。主演俳優にA.ステファンの名があるだけで僕は安心できる。
だからこそ、そうした作品の音盤も好んで聴いていくのだろう。

写真左から、
『無宿のプロガンマン』国内盤EP (Pochi Dollari Per Django 1966・伊/西)
『白昼の列車強盗』CD (Un Treno Per Durango 1967・伊/西)
『彼の名は復讐を呼ぶ』CD (Il Suo Nome Gridava Vendetta 1966・伊)
1970年代、マカロニ・ウエスタン映画の衰退も顕著となる。
A.ステファンの主演作品も僕らの国では劇場未公開の作品が続きます。その傾向は彼の主演作品だけでなく、マカロニ・ウエスタン映画そのものが世界から飽きられ始めていきます。
そうなるとA.ステファンの映画界における役割も終わるのか。
他の分野で活躍していくには、あまりにもマカロニ・ウエスタン映画のイメージが強過ぎたのでしょうか。
IMDbサイトは1991年までに67本の映画/TV作品に名を残すが、マカロニ・ウエスタン以外の作品では代表作と呼べる物が浮かんで来ない。
『皆殺しの詩・ゴッドマザー』(1973年、テレビ放映)、『キラー・フィッシュ』(1979年、ビデオ発売)等々の作品への出演があるも、僕たちには馴染みの薄い作品が続いた。この点でもクリント・イーストウッドやジュリアーノ・ジェンマ、フランコ・ネロとは違った。

左から、
『Gli Assassini Sono Nostri Ospiti』Poster (1974・伊)
『Malocchio』Poster (1975・伊/西/墨)
『Roma, L'altra Faccia Della Violenza』 (1976・伊/仏)
これらの作品は僕らの国では劇場公開もされず、映像媒体もリリースされていない。ジャンル的にはクライム物やミステリー系になるのだろうが、大きな評価を得ることは出来なかった。
結局、彼が選んだのは第2の故郷、ブラジルのリオデジャネイロに移り住むことだった。
1980年代......具体的な移住年は分かりませんが、リオの地で“Jet set”な生活を営むなんて言う記述も見受けられます。富裕層、悠々自適な生活を指す言葉のようですが、マカロニ・ウエスタン映画で蓄えた貯蓄なんでしょうか。僕などは羨ましく思えますが......。
しかし、2002年病魔が体を蝕み、その2年後に73歳の生涯を閉じました。
ここで僕の持つ映像媒体や音盤からA.ステファンの出演作品を見てみたい。
(マカロニ・ウエスタン以外の作品)

▲ 『キラーフィッシュ』Video (Killer Fish 1979・伊/伯/米)
撮影隊がチャーターした船舶のドライバー役です。アマゾン川周辺が舞台でして後半にピラニアに襲われて大怪我を追います。残念なことに西部の町でその名を高めたガンマンの姿は最後まで見られませんでした。

▲ 『非情の島・女囚大脱走』Video (Savage Island 1985・伊/米)
『キラーフィッシュ』と似た服装ですが正真正銘『非情の島・女囚大脱走』でのステファンです。女囚人に宝石を掘らせる悪徳王への復讐と女性の解放...その助っ人みたいな感じです。西部の町でその名を高めたガンマンが復活ですが、ここでも終盤に大怪我を負いました。
残念なことにマカロニ・ウエスタン以外で僕が持つステファンの映像媒体はこの2作品のみです。
次に音盤になりますが、作品そのものは未見です。

写真左から、
『La Notte Che Evelyn Uscì Dalla Tomba』CD (1971・伊)
『悪魔の性・全裸美女惨殺の謎』CD (Sette Scialli Di Seta Gialla 1972・伊)
『Roma L'altra Faccia Della Violenza』CD (1976・伊/仏)
ブルーノ・ニコライの傑作スコア『La Notte Che Evelyn Uscì Dalla Tomba』は“買い”の一枚です。国内版の映像媒体がリリースされていないのが残念ですね。A.ステファンが次々と女性を襲う悪漢を演じているようですが、その変質者の姿にB.ニコライの音楽が被るだけでも触手が動かされる。
『悪魔の性・全裸美女惨殺の謎』はマヌエル・デ・シーカのスコアで、この作品はTV放映されたようですが未見です。『Roma L'altra Faccia Della Violenza』のスコアはビクシオ・フリッツィ・テンペーラですね。
アンソニー・ステファンのマカロニ・ウエスタン作品を下に並べてみました。
僕のリスト上では25作品......マカロニ西部劇の主演を演じた本数が一番多いと言われていますが、この中で僕らの国で劇場公開がされた作品は8本になるでしょうか。この数が多いか、少ないかは判断に迷うところ......。
マカロニFANには支持の厚い作品や良作はありますが、一般の映画FANに響く作品が思い浮かんでこないのも事実であります。クリントイースト・ウッドのように時代の先駆者とも成り得ず、ジュリアーノ・ジェンマのような人を魅了する華やかさもなく、フランコ・ネロのような“ジャンゴ”=当たり役もなかった。その点が主役を努めた作品数は多いも、マカロニ俳優としての知名度は4番手、5番手のような印象になるのかと思います。
朴訥とした演技、悪く言えば、表情に乏しい......大根と揶揄されることもある。
だけど、裏を返せばそこが彼の魅力ではないのかな。荒野を歩むガンマンは不器用な男である。決して豊かな表情は必要ないし、“華”もいらない。ただ単に憎らしき相手に弾丸を撃ち込めば良い。とにきは転ぶことがあったって構わない。地べたをコロコロ転がるカッコ悪い撃ち方だって構わない。僕はアンソニー・ステファンが好きなんだ。彼が出演するマカロニ映画と言うだけでワクワクするし、真剣にモニターと向き合う気持ちになれる。
A.ステファンの出演作品で一番の思い出は...『無宿のプロガンマン』。
オムニバスLP盤でこの作品の音楽を聴いて思いを募らせた。そして、国内盤のEPを買って後生大事に抱えながらこの作品のテレビ放映を待ち続けた日々を思い出す。
■ アンソニー・ステファン in Macaroni Westerns ■
La Valle Delle Ombre Rosse 夕陽のモヒカン族 1965
Perché Uccidi Ancora 嵐を呼ぶプロファイター 1966
Una Bara Per Lo Sceriffo 荒野の棺桶 1965
Sette Dollari Sul Rosso 地獄から来たプロガンマン 1966
Ringo Il Volta Della Vendetta 荒野のプロファイター 1966
Pochi Dollari Per Django 無宿のプロガンマン 1966
1000 Dollari Sul Nero 砂塵に血を吐け 1967
Gentleman Jo... Uccidi 殺し屋紳士ジョー 1967
Killer Kid キラー・キッド 1967
Un Treno Per Durango 白昼の列車強盗 1967
Il Pistolero Segnato Da Dio 必殺の二挺拳銃 1967
Uno Straniero A Paso Bravo パソ・ブラボーの流れ者 1968
Il Suo Nome Gridava Vendetta 彼の名は復讐を呼ぶ 1969
Quien Grita Venganza 荒野の死闘 1968
Una Lunga Fila Di Croci 十字架の長い列 1969
Garringo 追跡者ガリンゴ 1969
Django Il Bastardo バスタード・ジャンゴ 1969
Shango, La Pistola Infallibile シャンゴ/百発百中 1970
Arizona Si Scateno...Li Fece Fuori Tutti アリゾナ無宿/レッドリバーの決闘 1970
Arriva Sabata サバタ同盟 1970
Un Uomo Chiamato Apocalisse Joe 皆殺しのガンファイター 1970
W Django ! 復讐のガンマン/ジャンゴ 1971
Lo Credevano Uno Stinco Di Santo カーバー&パコ 1972
Uno, Dos, Tres...Dispara Otra Vez (Tequila ! ) - 973
Il Mio Nome E Scopone E Faccio Sempre Cappotto 俺の名はスコポーネ負け知らずさ 1975

▲ Una Bara Per Lo Sceriffo
■ 妻の復讐のため保安官職を捨て、悪党仲間の中に潜り込んで復讐を遂げる男。

▲ Ringo Il Volta Della Vendetta
■ 隠された砂金を探す主人公ガンマン......裏切りや悪党の襲撃、背中に掘られたタトゥーの謎とは......。

▲ Pochi Dollari Per Django
■ 賞金稼ぎの主人公が保安官に扮し、過去を捨て真っ当に生きる男を悪党から守る戦いを.....。

▲ 1000 Dollari Sul Nero
■ 刑期を終えた男(無実の罪)が故郷に戻ると、そこは非道な弟が支配する町となる。骨肉の争いが......。

▲ Killer Kid
■ メキシコ革命の動乱のなか、密輸された武器の爆破を命じられたアメリカの大尉。

▲ Quien Grita Venganza
■ 賞金稼ぎコンビのひとりで町で一攫千金を狙うも、非道な悪玉との戦いに乗り出すことに......。

▲ Una Lunga Fila Di Croci
■ 牧師の賞金稼ぎと組んで悪党一味と戦うも、ラストでコンビを組む牧師と......。

▲ Garringo
■ 父親の命を奪った軍人を憎み、軍人殺しを続ける賞金首(P.L.ローレンス)......追跡者ガンマンの役。

▲ Django Il Bastardo
■ 軍人時代の裏切り者に復讐するために現れたガンマンの役どころ。

▲ Shango, La Pistola Infallibile
■ 村を支配する非道の悪玉と戦い、村を解放するガンマン。

▲ Arriva Sabata
■ 主人公三人衆のひとりで仲間と銀行を襲う......コメディ要素を交えた作品。

▲ Un Uomo Chiamato Apocalisse Joe
■ 叔父の仇であり、鉱山を乗っ取った非道な悪党及びその一味と激しきガンプレイを展開。

▲ W Django !
■ 妻を強盗団に殺害され、その復讐のために立ち上がったガンマン。
(2011/12/30 追記)
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